(8)眠れぬ夜

 「ねむ~れな~いよ~ると あめのひ~には~ ・・・ 」(オフコース)
 大潟村診療所に赴任して感じた事は色々あるのですが、その一つが「睡眠薬を飲んでいる人が多い!」事でした。睡眠薬(最近は睡眠導入薬と呼ぶ事が多いですが、中身は同じです)は便利な薬で、寝る前に一粒飲めば結構確実に眠れます。
 しかし、最近は睡眠薬・安定剤などはなるべく「飲むな」「飲ませるな」と言われています。なぜでしょうか。それは毎日薬を飲んでいると薬なしで眠ることができなくなってしまうからです。
 不眠というものは本来一時的なものなので、ある時期薬で眠れるようにしてあげればまた自然に眠れるようになるのです。けれども薬を続けて飲んでいると、薬なしでは眠れなくなってしまうことが珍しくありません。これは不眠状態が治っていないのではなくて、薬を飲んで眠るように脳みそが調節された結果なのです。眠るために薬を処方したはずなのに、薬がないと眠れなくなってしまう。これでは本末転倒です。中には薬をちょっとでも切らすとすごく具合が悪くなってしまう人もあります。こうなると「薬物依存症」です。実はこういう人は意外に大勢いるようで、薬のヤミ取引もされており社会問題となっています。
 薬がないと眠れない状態から薬をやめるのは結構大変です。簡単に言って薬の量を少しずつ減らすしかないのですが、「飲まないと眠れないんだからぁ!」とおしかりを受けることが珍しくありません。私も睡眠薬を飲んでいた時期があるのでそのお気持ちは良くわかります。でもそう言ってる限りは絶対にやめられません。忍耐と妥協が必要なのです。ただこれは薬を手放さない患者さんの問題だけではなく、安易に睡眠薬や精神安定剤の処方を続けた医者(私を含めて)の責任も大きいのです。しつこい不眠の方は専門医に診てもらうことをお勧めします。
 またお年寄りの場合、睡眠薬を続けて飲んでいると認知症になるとか言われていますが、現実的にはその心配はほとんどありません。それよりも、ふらついて転ぶことがあるのでそっちの方が要注意です。運が悪いと骨折します。お年寄りに飲んでほしい薬ではないのです。
 結論。睡眠薬は飲まないでいた方が絶対にいいです。